「先生、ポリファーマシーって知ってます?」(2)処方薬の減らし方
日頃からお世話になっている薬剤師の皆さんに送る「医師のトリセツ」。今回は前回に続き、ポリファーマシーの問題についてです。前回は処方薬を減らす具体的な手法について、いくつかご紹介しました。それは、下記の通りです。
ポリファーマシーに関するまとめ記事はこちら
(1)内服回数の多い薬剤を、同様の効果を持つ他剤に置換する
例:レバミピド 3錠 分3毎食後 → ランソプラゾール 1錠 1×朝後
(2)効果の相反する薬剤の削減
例:乳酸菌製剤と酸化マグネシウムの併用
→乳酸菌製剤の中止と、酸化マグネシウムの減量~中止
(3)同効薬の削減(特に他院の処方と効果がカブっていないか)
例:アスピリン 100㎎ と シロスタゾール 200㎎
(もちろんこれらの薬剤の「併用」によって効果がある疾患では変更せず)
(4)ある薬剤の副作用出現を懸念して併用されている薬剤の見直し
例:ロキソプロフェン 3錠 分3毎食後 と レバミピド 3錠 分3毎食後
→ セレコキシブ 2錠 分2朝夕後
(5)内服回数の削減
例:酸化マグネシウム(250㎎)4錠 分4毎食後・就眠前
→ 酸化マグネシウム(250㎎)4錠 分2朝夕後
(6)腎機能障害や肝機能障害を引き起こしている可能性のある薬剤の削減
例:血液検査で腎機能・肝機能の低下している場合、原因薬を推定。
まずは数値が極度に不良な場合のみ。
(7)効果の不明瞭な薬剤の中止
例:疼痛がない患者さんで鎮痛剤を内服しているケースなど。
いったん鎮痛剤を中止しても疼痛がなければそのまま中止。
(8)患者さんの訴えを再確認することで、薬剤の不要な追加・増量を回避
例:「不眠」を訴える高齢者に何時間眠っているのか、何時に就眠するのか確認。
高齢者では6時間以上就眠することが難しいことも多く、断眠も2回が平均。
例:「便秘」といっても、「毎日 便が出ていないから便秘!」という方も多い。
毎日出ても少量なら便秘になりうるし、2日に1回でも充分量ならOKのことも
処方薬を服薬タイミングごとにまとめる
そして私が「処方削減パターン」のスイッチを入れるのは、まずは処方薬を服薬タイミングごとにまとめることからスタートする、とご説明しました。では早速、実例を挙げて手順をご説明したいと思います。
82歳・男性
既往歴 :高血圧、陳旧性微小脳梗塞、糖尿病、便秘症、不眠症
診察所見:血圧 120/70mmHg、心拍 80/分、身体所見に顕著な異常なし
- アムロジピン (5mg)1錠 分1 朝後
- 酸化マグネシウム(330mg)3錠 分3 毎食後
- アスピリン (100mg)1錠 分1 朝後
- ゾルピデム (5mg)1錠 分1 就眠前
- 乳酸菌製剤 3g 分3 毎食後
- ボグリボース (0.2mg)3錠 分3 毎食前
- 大建中湯 7.5g 分3 毎食前
これを内服タイミング毎にまとめると…
- アムロジピン (5mg)1錠 分1 朝後
- アスピリン (100mg)1錠 分1 朝後
- ボグリボース (0.2mg)3錠 分3 毎食前
- 大建中湯 7.5g 分3 毎食前
- 酸化マグネシウム(330mg)3錠 分3 毎食後
- 乳酸菌製剤 3g 分3 毎食後
- ゾルピデム (5mg)1錠 分1 就眠前
1日の服薬回数は、毎食前後と就眠前の、計7回/日。やはりこれは多いですよね。最初に注目したいのが、「毎食前」の内服薬です。食事の前に服用するのは、ついうっかり忘れてしまうもの。私なら恐らく8割は服み忘れます(汗)。そこでまず、「ボグリボース」を中止してみましょう。すると、αグルコシダーゼインヒビターの副作用である便秘症が改善することになり、思い切って大建中湯も中止してみました。しかし便通が悪化したため、センノシドを加えました。しかしこれで食前薬はなくなり、以下のようになりました。
- アムロジピン (5mg)1錠 分1 朝後
- アスピリン (100mg)1錠 分1 朝後
- 酸化マグネシウム(330mg)3錠 分3 毎食後
- 乳酸菌製剤 3g 分3 毎食後
- センノシド (12mg)1錠 分1 夕後
- ゾルピデム (5mg)1錠 分1 就眠前
さて、次は効果の相殺する薬剤の中止です。酸化マグネシウムと乳酸菌製剤を中止してみます。この変更では下剤の調整は必要ありませんでした。したがって、以下のようになります。
- アムロジピン (5mg) 1錠 分1 朝後
- アスピリン (100mg) 1錠 分1 朝後
- センノシド (12mg) 1錠 分1 夕後
- ゾルピデム (5mg) 1錠 分1 就眠前
さて、この方は82歳。以前に比べて高血圧ガイドラインもずいぶんと様変わりして、認知機能や転倒リスクを考えて、今では後期高齢者であれば以前よりもずっと高い血圧でコントロール可能となりました。そこでアムロジピン 5mgなら、中止してもガイドラインを大きく超えることはないはず。アムロジピンを中止します。すると朝の内服薬、アスピリンが残りました。改めて易出血性に対する予防としてランソプラゾールを追加しました。すると、
- ランソプラゾール(15mg)1錠 分1 朝後
- アスピリン(100mg)1錠 分1 朝後
- センノシド(12mg)1錠 分1 夕後
- ゾルピデム(5mg)1錠 分1 就眠前
ここまで来たら、1日何回まで服用回数を減らせるか、お分かりですね? そう、2回!…ではなく、1回です。アスピリンは、手術前などには中止・休薬を1週間程度 行う必要がある薬剤です。ですから半減期も長く、1日の中でいつ内服しても効果に差はないはず。アスピリンの内服は、いつ内服しても大きな差はないのではないかと考えます。そこでアスピリンを動かせば、ランソプラゾールも合わせて内服タイミングを変更してしまいましょう。さらにセンノシドも就眠前の内服でも問題はありませんから、最終的には下記の通り、1回にまとめることにしました。
- ランソプラゾール(15mg)1錠
- アスピリン(100mg)1錠
- センノシド(12mg)1錠
- ゾルピデム(5mg)1錠 分1 就眠前
もちろん薬剤の専門家の皆さんであれば、言いたいこともあるかもしれませんが、実際に私が行っている処方調整の一例をご紹介しました。この変更により、15錠 分7が、4錠 分1になりました。この結果、仕事から帰った同居家族により服薬コンプライアンスは完ぺきに順守されるようになりました。
私が考える、「増えやすい薬剤」
私が患者さんの薬を減らした具体的な方法は冒頭でご紹介しました。これは私が薬を減らした方法であると同時に、私以前の医師たちが増やし続けた処方とも言えます。そこで改めて冒頭の①から⑧を見てみると、消化器系、鎮痛系、便通系、睡眠系が例として紹介されています。実はこれらの薬剤こそ、私の考える「増えやすい薬剤」なのです。その特徴を私なりに文字にすると、「中止しないと効果が検証できない薬剤」、「効果・効能に固執しやすい薬剤」です。
前者の代表例は「鎮痛剤」ではないかと思います。ですから疼痛がない患者さんには充分に事前に説明をして、薬剤を中止・減少していく必要があります。この場合、「薬を中止したら、やっぱり痛くなった」という思いを持たせないよう、徐々に薬を減らしていくことが大切です。疼痛が出現したとしても「自制内」のレベルであればいいかもしれませんし、減量や他の薬剤への置換もできるかもしれません。まずは、ゆっくりと、が原則です。
後者はメンタリティーの影響の大きな薬剤、という印象で、「睡眠」に関する薬剤や「便通」に関する薬剤が代表格です。冒頭の⑧で挙げたように、心理的要因によって影響を受けやすい薬剤は、医療者による傾聴によって減量や中止が可能になる場合が多くみられます。「不眠」の自覚のない方々以上に治療していないか、「便秘」を訴えない方々よりも執拗に便通に介入しすぎていないか、医師自身も自覚をもって治療にあたる必要があると思います。
前回と今回、2回に渡ってポリファーマシーについてお話ししてきました。私だけでなく、多くの医師が多忙な業務の中で患者さんのために内服薬を調整し、服薬コンプライアンス向上に努めています。薬剤師の皆さんには、特に処方薬数が多い患者さんについて、医師の前では言いづらい患者さんのホンネを聞き出していただき、医師へとフィードバックしてもらえれば、と思うのです。そんな、われわれ医師にはない薬剤師さんならではの視点、単なる薬の知識を超えた薬剤師さんならではの処方の工夫など、薬剤師さんでないとできないスキルが、今後の医療界を変えていくかもしれません。