薬剤師とケアマネの連携で残薬を解消
茨城県古河市では2018年10月から1年半に渡り、薬剤師とケアマネジャーの連携により、継続性のある服薬管理の仕組みづくりが行われていました。 今回はこの『古河モデル』を始めた経緯や苦労した点、取り組みの結果と展望について、古河薬剤師会会長の高橋真吾さんと同会副会長で連携事業担当の宇田和夫さんに話をうかがいます。
高橋 真吾さん
古河薬剤師会 会長
宇田 和夫さん
古河薬剤師会 副会長
高橋 真吾さん
古河薬剤師会 会長
宇田 和夫さん
古河薬剤師会 副会長
古河モデルの概要
特徴
- 地域のほぼすべての薬局が参加している
- 「ケアマネジャーはスクリーニング」「薬剤師はアセスメント」と役割分担が明確
- 連携シートはシンプルなチェック方式
- 「特定の質問項目が『はい』ならばすべて共有」とルールがシンプルかつ明確
提供:古河薬剤師会
1. | ケアマネジャーが「服薬気付きシート」を使って、利用者情報を収集 |
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2. |
ケアマネジャー:収集した利用者情報をもとに「連携シート」を作成し、薬剤師に共有 薬剤師:「連携シート」の情報をもとに、ケアマネジャーと連携をとりながら服薬アセスメント(服薬管理状況の評価や課題の抽出、対応策の検討など)を行う |
3. |
薬剤師:服薬アセスメントの結果を「連携シート」に記入し、担当ケアマネジャーに返信 ケアマネジャー:ケアプランへの反映や、薬剤師と協働して課題解決にあたる |
薬剤師とケアマネの協働を「システム化」して残薬を減少
「古河モデル」ができた経緯を教えてください。
高橋:薬局でしか接点がない患者さまの残薬や飲み間違い理解不足などの服薬管理の問題を把握するのは困難です。「お薬を欠かさず飲めていますか」と聞いたとき、実際は飲めていない場合でも、「飲んでいる」と回答される患者さまは少なからずいるからです。
患者さま全員を訪問して薬剤管理できればいいですが、マンパワーの問題や患者さまのご意向もあり現実的ではありません。
そこで、他の医療・介護職に患者さまの残薬をはじめとする薬に関する情報を集めてもらい、薬剤師に共有してもらう体制をつくることを考えました。その結果、薬の問題が発生しやすい高齢患者さまの状態を、最も身近な距離感で把握しているケアマネジャー(以下:ケアマネ)との連携が最適だと判断しました。
ケアマネが属する茨城県介護支援専門員協会古河地区会も、我々と同じく残薬に関する問題意識をもっていたため、円滑に協力体制がつくれたことは幸運でした。
「古河モデル」では、薬剤師会の会員・非会員を問わず、市内のほぼすべての薬局が参加していることも大きな特徴です。
宇田:地域包括ケアシステムの構築が求められているいま、市内全体を網羅できる取り組みにしたいという思いがありました。日々の業務だけでも忙しいなか仕事が増えることに、抵抗感がある薬局・薬剤師もいました。
しかし同時に、ほとんどの薬剤師が普段来局している患者さんの服薬状況をしっかり把握しておきたいという思いをもっていました。そのため、ケアマネが集めた患者情報を共有する際、かかりつけ薬局・薬剤師に振り分ける体制を整えました。この”かかりつけ”を振り分けの基本とすることが、これから地域でさらに増える薬の問題に応え続けるために必要な体制だと考えています。
我々地域の薬剤師会は本来、市民のための団体であるはずです。そして薬剤師の価値を地域全体に届けるためには、非会員の協力を仰ぐ必要があります。幸い、ドラッグストアを含めた市内のほぼすべての保険薬局に参加いただけました。
薬剤師間で意識を統一することだけでも大変ですが、古河モデルではケアマネとの連携が”キモ”と言えます。他職種との円滑に連携するためのポイントはどこにあったのでしょうか。
高橋:「ケアマネはスクリーニング」「薬剤師はアセスメント」とそれぞれの役割を明確に分けたことです。古河モデルの前に試験的に行ったプレ調査の時点では、ケアマネが利用者情報を集めた後、「薬剤師への共有が必要だと判断したら」共有する仕組みでした。しかしその結果、本来薬剤師が介入すべき事案が共有されないことがありました。
そこで古河モデルではほぼすべての質問をチェック形式にし、「複数の医療機関を受診している」「6種類以上の薬を飲んでいる」など特定の項目が「はい」ならば、すべて薬剤師に共有する仕組みに変えました。
これにより、先述のような報告漏れが防げるのはもちろん、ケアマネ自身が共有の要否を判断しなくていいため、負担感なくスクリーニングに臨めるようになりました。
提供:古河薬剤師会
※赤枠にチェックしたら、すべて薬剤師に共有。共有する基準が明確になったことで、報告漏れがなく効率的な運用が可能になった
古河モデルの結果について教えてください。
宇田:この研究は1回限りの取り組みで終わらせるのではなく、「継続性のあるシステム」の構築を目的としています。そのため、半年ごと3期に渡り実施しました。各期で約1400~1500人のスクリーニングを実施し、3期間通してスクリーニングを実施した患者さまは931人。そのうち、薬剤師が第1期にアセスメントを行った事例は257件でした。この257件を調べたところ、1期で20人いた「残薬あり患者」は3期には2人まで減少しました。また、飲み忘れや飲みにくさ、理解不足、不安・疑問などについてもすべて減少傾向が見られました。
提供:古河薬剤師会
高橋:グラフに表れない部分でも、多くの「連係プレー」が生まれました。たとえば、残薬なしと聞いていた患者さんが実は抑肝散を廃棄していたことが判明したり、薬剤師の自宅訪問拒否の患者さまにケアマネが介入し、許可を得て薬の管理状況を写真に撮って共有したりといった事例がいくつもあります。
すでに信頼関係ができていた特定の薬剤師―ケアマネ間の連携ではなく、地域のケアマネがどんな薬剤師にも気兼ねなく相談し連携できる環境をつくれたことは、「古河モデル」というシステムの大きな成果と言えるでしょう。
今後の展望について教えてください。
宇田:2018年から1年半に渡る今回の研究を通して、ケアマネと薬剤師の連携の仕組みが残薬の減少などに寄与することが示せました。しかし、半年ごとにケアマネが担当する利用者全員に対して同じようにスクリーニングをかけ薬局と連携することは現実的ではありません。
現在はICTを活用して利用者ごとにケアマネと薬剤師がつながり、日常的な情報共有ができないか新たな模索を始めたところです。今回の連携の仕組みによって残薬解消につながることを示せたので、最終的には、診療報酬や介護報酬で評価され、多くの要介護者に薬剤師の価値が届けられるようになれば良いと思っています。