【第4回】薬剤師のための糖尿病治療の豆知識
~患者さんの変化に気づき、正しく指導できるようになろう~
糖尿病の世界では長年、患者さんの総死亡を減少させる(長生きできる)治療法の確立を目指してきました。ここ最近、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬により総死亡を抑制できたという臨床試験結果が出たことで、各国のガイドラインなどが大きく変わってきています。
糖尿病療養指導士、糖尿病薬物療法認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、日本糖尿病学会、日本くすりと糖尿病学会、日本化学療法学会に所属する著者が薬剤師の皆さんに知っておいて欲しい糖尿病治療のポイントをご紹介します。
【参考文献】
・糖尿病療養指導ガイドブック2016
・糖尿病治療ガイド2018-2019
明日から服薬指導にいかせる!糖尿病食事療法のポイント
第4回では、糖尿病療養指導士として、食事療法の理想と現実についてお話ししていきたいと思います。ぜひ、明日からの糖尿病患者さんへの指導に活用していただければと思います。
ポイントは緩急?実現可能な食事療法とは
皆さん、すでに実感されているとは思いますが、糖尿病治療の3本柱である食事療法、運動療法、薬物療法の中で、大きなシェアを占める食事療法。これを患者さんに実践してもらうことは、非常に難しいですよね。私自身、患者さんの立場になった時に、理想的な食事療法を実践し続けることができるとはとても言えないです。
実現可能な食事療法を考える上で大事なポイントは、緩急ではないでしょうか。誰でも緩む時もあれば、自らの体の状態(例えば、糖尿病で言えば、血糖値やHbA1c、日々の体調の変化など)を勘案して、「ちょっと頑張らないと・・・」と思うこともあるでしょう。そんな時、「それでいいんです!まずは、緩み続けない方法を考えましょう!」と言ってあげるだけでも、気持ちが大きく変わる患者さんもいるかもしれません。
治療の目的はQOLを保つこと。本質を見失わないために
医学的な観点で考えても、一瞬の乱れが血糖の上昇、動脈硬化の進展に結びつくことはあっても、ある程度の期間、元の生活に戻せば、自身で血糖値を改善することができます。しかし、その期間が長くなればなるほど、蓄積した高血糖による糖毒性などにより、元に戻りにくくなる可能性もあり、緩み続けないことを心掛けることが大切です。
そもそも糖尿病治療における血糖コントロールの目的は、患者さんが満足するQOLをできるだけ担保し続けることにあります。治療方針は、ある程度頻繁に見直しを行わないと、患者さんの満足度を下げてしまう可能性があると私自身は思っています。患者さんが自ら決める自身の治療方針を、できる限りエビデンスベースに近づけるお手伝いをすることこそ、糖尿病療養指導の本質ではないでしょうか。
野菜を多めに・・・だけでは不十分?タンパク質にも注目されはじめた食事療法
糖尿病の食事療法では、理想体重を求めて、その体重に普通の活動度の方なら30kcal/kgをかけて指示カロリーを求め、野菜を多めに摂取しましょうと指導してきました。ただ、最近では、高齢者のフレイル、サルコペニアなど筋力を維持することが大切という観点が注目され、タンパク質摂取量や総摂取カロリーについても見直されつつあります。
ある報告*1では、高齢者のADLを担保するためには大腿四頭筋の維持が大切で、少なくとも1~1.5g/kg/dayのタンパク質を摂取することが大切であると言われています。
変わりつつある総摂取カロリーの概念
実は総摂取カロリーの減少が筋肉量の減少と相関していることも分かってきています。近い将来、特に高齢者では食事療法の概念が大きく変わるかもしれません。ドラフトで発表*2 されている指示カロリー計算も高齢者では理想体重ではなく、目標体重を用いて下記のように計算するように記されています。
65歳未満:理想体重(BMI22)×活動度に合わせたkcal
前期高齢者:目標体重(BMI22-25)×活動度に合わせたkcal
後期高齢者:目標体重(BMI25)×30kcal以上
ややBMIが高い高齢者の方が元気なことは、実感しますね。
一方で、上記の摂取カロリーを摂ることが難しい高齢者の方もおられます。理想に近づける努力は必要ですが、家でも入院中でも出来る限り変わらない生活が送れるようにすることが大切です。
食事の質にも注意が必要
タンパク質摂取量を増やすために、実際何をどれだけ食べれば良いのでしょう。腎機能が低下している患者さんにタンパク質を多く摂取させると腎機能を悪化させてしまう懸念があります。糖尿病治療ガイド2018-2019では下図のように、摂取量の目安を記載しています。
(糖尿病治療ガイド2018-2019 一部改変)
最近の知見によると、確かに赤身の肉を多く取ると腎症悪化リスクは高くなるが、魚や食物性のタンパク質を摂取するとむしろ腎症悪化リスクが低くなるという報告*3があります。また、アミノ酸の中でもロイシンをしっかり摂ることが筋肉量の維持には効果が高いという報告もあり、ロイシン自体は、どちらかというと肉より魚に多く含まれています。
このように一口に食事療法と言っても、患者さんの年齢や合併症、血糖コントロールや生活環境などさまざまな要素に合わせて、できるだけ理想的なテーラーメイド食事療法を考えることが大切ですね。
*1*2*3 :第8回日本くすりと糖尿病学会シンポジウム