新出題基準から初めての出題
現役薬剤師の皆さんは、薬学部のカリキュラムの変化をどこまでご存知ですか?これまでの特集の中でも、国試で「薬理」と「病態・薬物治療」が連問で出題されたことはお伝えしていましたが、他の部分にも変化はあるんです。
2015年(H27年)入学生より適応されている薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂(改訂コアカリ)に基づき、2021年(R3年)国家試験(106回)から適用される薬剤師国家試験出題基準(新出題基準)が、2017年(H28年)に公表されています。新出題基準は、適用される時期を考えるとかなり早い段階で公表されていますが、既に最新国試(104回)においても、今後の新出題基準を意識した内容が、複数出題されているんです。
その中で今回紹介する内容は、新出題基準に追加された【以下の皮膚細菌感染症について、病態・薬物治療の概要を説明できる:伝染性膿痂疹、蜂窩織炎】と【生命倫理の諸原則(自律尊重、無危害、善行、正義等)について説明できる】という項目からの出題です。皮膚細菌感染症は、実症例でも目にすることの多い疾患について、具体的に出題基準に明記されたものです。また、生命倫理の諸原則は生命倫理の分野では、必ず学ぶといって良いほどの内容ですが、薬学のカリキュラムの中で取り上げられることは少なかった部分です。これを機に学び直してみませんか。
- 蜂窩織炎
- アトピー性皮膚炎
- 尋常性乾癬
- 帯状疱疹
- じん麻疹
- 善行原則
- 正義原則
- 自律尊重原則
- 優生原則
- 無危害原則
正解である蜂窩織炎は、皮膚の深部から皮下脂肪組織にかけて細菌感染することによって生じる。起因菌としては、化膿連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が一般的である。
アトピー性皮膚炎とじん麻疹は、Ⅰ型アレルギー疾患、尋常性乾癬は免疫異常、帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの回帰感染が原因とされている。
選択肢の疾患はいずれも皮膚疾患ですが、それぞれの原因を理解した上で、細菌感染が原因の疾患を選ぶ問題になっています。受験生は蜂窩織炎?何て読むの?初めて聞いた疾患だ!と思ったかもしれませんが、他の選択肢の疾患を消去することで解答を導いているようです。
臨床研究や臨床現場における医療行為の倫理的問題に適切に対応するための基礎的倫理原則として、生命倫理の四原則が存在する。
自律尊重原則 | 医療者が患者の自律的な意思決定を尊重すること。 |
善行原則 | 医療者が患者に対して利益をもたらす行為をなすこと。医療者は、リスク/ベネフィットを比較考慮して、最善の行動を成すこと。 |
無危害原則(無加害原則) | 患者に危害を及ぼさないこと、及ぼすことを避けること。患者に起こりうる害悪や危害を未然に防いだり、除去したりすること。 |
正義原則 | 患者を平等かつ公平に扱うこと、利益と負担(医療資源)を適正に配分すること。限られた医療資源をどのように配分するか考慮すること。 |
そもそも生命倫理(Bioethics)という用語は、1970年代にアメリカで使われ始めました。
生命倫理を医療現場に適用することを考える決定的なきっかけは、アメリカのタスキーギ地方で貧困層の黒人に対し、梅毒感染者を無治療で経過観察するという実験をした、タスキーギ梅毒実験です。タスキーギ梅毒実験が明るみになった後、①人格の尊重、②善行、③正義の3原則を示したベルモント・レポートの発表などにつながり、これに無危害原則を加えて、現在の生命倫理の四原則としています。
また、本問題の解答にある「優生」という単語は、つい最近のニュースでも聞いた覚えはないですか?そうです、2019年4月の旧優生保護法に基づき優生手術等を受けた患者に一時金の支給等を行うことになったというニュースです。そもそもこの旧優生保護法下では、障害者やハンセン病患者などに、ほぼ強制的に不妊手術等を行うことが合法とされていました。今では倫理的にも考えられないことかも知れないですが、当時はそれが容認されてしまっていた、つまり時代によって、考え方は変わってくるという1つの事例なのでしょう。
今後も医療の進歩によって、医療倫理が問われる場面が多くなるかもしれません。その時々で適切な対応ができるよう、改めて医療倫理を考える時間があってもいいかもしれないですね。
※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,555名参加)より
堀川 絵里(ほりかわ えり)
学校法人 医学アカデミー 薬学ゼミナール 教育課、講師(法規・制度・倫理)、薬剤師。共立薬科大学大学院(現・慶應義塾大学大学院)卒業。