薬剤師の10年後は厳しい? 生き残るための必要な付加価値の作り方
これまで薬剤師は安定した職業と言われてきました。国家資格であり、医療職として需要がなくなることはないと考えられてきたためです。しかし近年は「薬剤師は飽和する」「10年後は厳しくなる」といった声も聞こえてきます。薬学部の増加による薬剤師数の増加やAIや自動化の進展など、時代は確実に変化しています。この記事では、10年後の薬剤師を取り巻く環境の変化と、これからも活躍するためのキャリア戦略について解説します。
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薬剤師の需要はこれから減っていく?
薬剤師は飽和状態にあり、これから働きたくても働けなくなるかもしれないと聞いたことはないでしょうか。まず、薬剤師の需要と供給はどのような状況にあるかを確認してみましょう。
薬剤師が「安定」と言われてきた理由
薬剤師は女性であっても仕事に困らないと思って薬剤師免許を取った方も多いのではないでしょうか。薬剤師が長年安定した職業と言われてきた理由は、医療分野の仕事であることと国家資格であることにあります。
医療は景気の影響を受けにくく、病院や薬局は社会に欠かせない存在です。また、日本では国によって医薬分業が進められたため、薬局の数はコンビニを上回る勢いで増加しました。それに従って薬剤師の需要も拡大しました。薬剤師の求人倍率は常に高く、免許さえあれば仕事に困ることはない状態が長く続いたのです。
さらに、薬剤師免許は一度取得すれば一生有効です。都市部だけでなく、たとえへき地や離島であっても全国どこでも働けるため、転職先が見つかりやすいという特徴もあります。このような状況から、薬剤師は資格を取れば一生仕事に困らないと考えられてきたのです。
なぜ今「10年後が不安」と言われるのか
しかし、現在は、薬剤師であっても一生安泰ではないかもしれないと言われるようになりました。近年、薬剤師の将来に不安を感じる声が増えているのは、薬剤師を取り巻く環境が大きく変化しているためです。
薬学部の新設によって薬剤師の人数は年々増えています。また、AIの急速な進化を見て、10年後には薬剤師の仕事が取って代わられるのではという声も聞こえてきます。さらに調剤報酬の改定により、薬局経営が厳しくなるケースも増えています。このような変化が重なり、「今までと同じ働き方では将来が不安」と言われるようになっているのです。
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10年後の薬剤師を取り巻く環境はどう変わる?
ここからは、薬剤師を取り巻く状況は今後10年間でどう変わっていくと考えられるかについて解説します。
薬剤師数の増加と飽和問題
薬学部が6年制に移行したころに、多くの大学で薬学部が新設されました。その結果、薬剤師国家試験の合格者数は毎年約1万人前後と高水準が続いています。また、薬剤師は年齢を重ねても続けることができ、定年も60歳から65歳に延長されたため、現役で働いている薬剤師の総数は増え続けています。
厚生労働省が2021年に公表した今後の薬剤師の需給推計では、将来的に薬剤師の供給が需要を上回る可能性が示されています。
「第8回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」によると、2045年ごろの薬剤師需要は約33万人程度と見込まれている一方、薬剤師免許を持つ人の数は約43万~45万人程度に達する可能性があります。つまり、状況によっては数万人規模で供給過多が生じるかもしれないという試算です。
薬剤師の需給推計
引用元:資料1:薬剤師の需給推計(案) /厚生労働省
ただし、この推計は単純に「薬剤師が余る」という意味ではなく、地域や職場によって需給バランスは異なることも指摘されています。特に地方や病院、在宅医療の分野では、今後も薬剤師不足が続く可能性があるとされています。
参考資料:第8回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会(ペーパーレス・Web会議)資料 資料1:薬剤師の需給推計(案) /厚生労働省
AI・自動化による業務変化
近年、薬局では調剤機器の自動化やAIの導入が進んでいます。自動分包機や調剤ロボット、薬歴入力のAI補助などにより、単純作業の効率化が進んでいます。将来的には、調剤や在庫管理などの業務はさらに自動化されていくでしょう。
このような自動化が進むと、必要とされる薬剤師の数は減ってしまうと感じるかしれません。ただ、これは「仕事が奪われる」というネガティブな面だけではありません。薬剤師が単純作業から解放され、より高度な薬学的管理に集中できるチャンスでもあります。
薬剤師の仕事は、薬を揃える作業から、患者さんとコミュニケーションを取りながら、より効果的に薬を使ってもらうという管理の面が大きくなるでしょう。
「機械は苦手」と新しい技術に及び腰で、機械に代替可能な作業しかできない薬剤師にとっては厳しい環境となるかもしれません。これからはデジタルを「ツール」として使いこなす姿勢が不可欠です。
調剤報酬改定による薬局経営の変化
日本の薬局経営は調剤報酬に大きく依存しています。そのため、調剤報酬改定の影響を強く受けます。
調剤報酬は、「モノからヒトへ」という方針を鮮明に打ち出しています。単なる調剤料は引き下げられ、対人業務の評価(地域支援体制加算や服薬管理指導料など)に重きが置かれるようになりました。
近年の改定では、単なる処方箋受付型の薬局よりも、地域医療に貢献する薬局が評価される方向になっています。かかりつけ薬剤師制度や服薬フォローアップ、在宅医療などが重視されており、患者との関わりが少ない薬局は今後経営が厳しくなる可能性があります。
都市部と地方で状況の違いが広がる
薬剤師の需給バランスは地域によって大きく異なります。
薬学部のある大学は都市部に多く、大学卒業後はそのまま都市部で就職する学生が多いのが実情です。東京や大阪などの都市部ではすでに供給過剰の兆しがあり、求人倍率の低下や給与の頭打ちが見られます。一方、過疎化が進む地方では、依然として深刻な薬剤師不足が続いています。
10年後は、この地域による需給バランスの違いがより顕著になるでしょう。都市部では競争がより激しくなることが予想されます。
薬剤師として長く働くためには、どこで働き生活していくかを選ぶことも重要になるでしょう。
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それでも薬剤師は10年後も必要とされる理由
このように、薬剤師を取り巻く環境は変化しています。これまでのように薬剤師免許を持っているだけで安泰ということはなくなるかもしれません。
ただ、それでも薬剤師が必要とされ、薬剤師免許が「強い」資格であることに変わりはありません。その理由を詳しくみていきます。
高齢化社会で医療需要は増える
日本は世界で最も高齢化が進んでいる国の一つです。2035年前後は、いわゆる「団塊の世代」が85歳以上になり、医療・介護のニーズがピークを迎える時期です。医療の需要そのものが増えるため、薬剤師のニーズがなくなることはないでしょう。
高齢者は複数の医療機関を受診し、複数の薬を服用する「多剤併用(ポリファーマシー)」の問題が起こりやすくなります。このような状況では、薬の飲み合わせや副作用を確認し、適切な服薬管理を行う薬剤師の役割が非常に重要になります。このような細やかな対応はAIにはできません。薬剤師は高齢化社会において欠かせない存在であり、今後も医療現場での必要性は高いといえるでしょう。
在宅医療の拡大
高齢化の進行に対応するため、国は「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。これは、医療や介護を病院中心から地域中心へと転換し、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう支える仕組みです。
今後10年も、この流れは続いていくでしょう。薬剤師にとっても、患者の自宅や介護施設へ足を運ぶ在宅医療への対応がますます重要となります。在宅医療では、単なる配薬だけでなく、服薬状況の確認や残薬の整理、剤形の提案など、患者の生活環境を踏まえた支援が求められます。このように在宅対応ができる薬剤師のニーズは今後も高いと考えられます。
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10年後に「生き残る薬剤師」と「淘汰される薬剤師」の違い
ここからは、10年後も生き残る薬剤師と仕事を得るのが難しくなる薬剤師の違いについてみてきます。
調剤スキルだけでは不十分な理由
「正確に薬を準備する」というスキルは、今後どんどんAIや調剤ロボットに置き換わっていくでしょう。単純な調剤作業の価値は相対的に下がっていきます。そして、これまでの働き方にこだわり、IT化を受け入れない姿勢でいると、淘汰される側になってしまうかもしれません。
これからは、調剤ロボットやAIツールを積極的に使いこなしていくことも「調剤スキル」となります。過去の仕事のやり方や成功体験にこだわらないことが大切になります。
これからはコミュニケーション力がより重要に
近年の医療政策では、薬剤師の業務を「対物業務」中心から「対人業務」中心へと転換する流れが進んでいます。
これまでみてきたように、処方箋通りに正確に薬を調達・調剤する対物業務の多くは自動化・AI化されていきます。一方で、患者さんや他の医療従事者といった「人」に関わる領域の重要度は増していくでしょう。
また、在宅医療や介護の現場では、医師、看護師、ケアマネジャーといった多職種との連携も重要です。そこでは、他職種が判断しやすい形で薬学的知見を共有する力が不可欠です。医療チームの一員として信頼されるために、コミュニケーション力がより重要になるでしょう。
在宅医療のニーズは増加
現在は在宅医療に関わっている薬剤師はまだ限定的ですが、今後薬剤師として生き残っていきたいと考えるなら、この分野にシフトしていくことが重要です。
前述したように、在宅医療のニーズはこれからどんどん増加していきます。これから生き残っていこうと考えるなら、ニーズの高い領域で働くことが最もスムーズだといえます。
その第一歩として、自分が住んでいる、あるいは働いている地域の医療体制を調べてみるとよいでしょう。地域によって高齢化率や在宅医療の体制は大きく異なるため、地域の医療ニーズを知ることで、今後薬剤師に求められる役割が見えてきます。
また、患者さんとの関係性を深めるという意味では、かかりつけ薬剤師の経験を積んでおくことも重要です。
もし今の職場に在宅のチャンスが少ないなら、積極的に在宅医療へ取り組んでいる薬局への転職も考えてみましょう。10年後に「選ばれる薬剤師」であるためには、今から積極的に動くことが大切になります。
選ばれる薬剤師に必要な「付加価値」とは
これからの薬剤師として選ばれる存在になるには、単なる調剤スキル以上の「付加価値」が求められます。
たとえば、がんや感染症などに関する専門資格を持つ、在宅医療で豊富な経験がある、患者さんに寄り添ってさまざまな提案ができるといったことがあげられます。また、IT機器やAIツールを使いこなして薬局内の業務効率化に貢献できるといった方向もあるでしょう。
今後は剤師業界も変化してくことが予想されます。これまでの常識にとらわれず、状況の変化に柔軟に対応しながらまわりにポジテイブな影響を与えていくことが大切です。薬局や医療機関から「この人に来てほしい」と思われる存在になることが、今後のキャリアでは重要になります。
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薬剤師が10年後も活躍するための5つのキャリア戦略
ここまでの流れをふまえて、これから10年後も求められる薬剤師として活躍していくためのキャリア戦略を整理していきます。
在宅医療に強くなる
前述したように、これからの日本において在宅医療は今後確実に拡大すると考えられる分野です。手堅く生き残っていきたいと考えるなら、在宅医療に積極的に関わっていくことは有効です。
在宅での実績は、どの地域、どの薬局に転職しても高く評価されるポータブルスキルになります。また、多職種連携の輪に入り、顔の見える関係を築くことで、地域医療のキーマンとしてのポジションを得ることができます。10年後を見据えるなら、在宅から逃げない姿勢が最も確実な投資と言えます。
専門資格を取得する
がん、糖尿病、感染症などの特定の領域で「この人に聞けば安心」と思われる強みを持つことも、薬剤師として大きな強みとなります。外来がん治療専門薬剤師、地域薬学ケア専門薬剤師といった認定資格の取得は、知識の裏付けとなるだけでなく、自身の意欲を周囲に示す強力なツールになります。転職の際もアピールポイントとなるでしょう。
ITやデータ活用に強くなる
電子処方箋、オンライン服薬指導、薬歴のAI入力支援など、薬局のDX(デジタルトランスフォーメーション)は急速に進みます。これらのツールを「面倒なもの」と捉えず、積極的に使いこなし、業務効率化に役立てていこうというマインドが大切です。
さらに、患者さんの服用データを分析し、アドヒアランス低下の予兆をいち早く察知するなど、一歩踏み込んだ活用ができるようになれば、医療チームの中での存在感も高まるでしょう。患者さんの健康を守ることにもつながります。
ITを敵に回すのではなく、強力な右腕として使いこなす側に回りましょう。
コミュニケーション力を磨く
これまでの服薬指導は、薬の飲み方や注意点を患者さんに伝えることが中心でした。これからは、患者さんの生活背景や価値観に寄り添ったコミュニケーション力が大切になります。
たとえば、残薬がある際に「きちんと飲んでくださいね」で終わらせるのではなく、「なぜ飲めなかったのか」という背景を、患者さんの心理に寄り添って聞き出すといった力です。単なる服薬の確認ではなく、対話を通じてアドヒアランス低下の原因を見つけ出し、医師へ処方提案を行う。このプロセスこそが、機械には代替できない薬剤師の役割となります。
患者さんや医療スタッフとコミュニケーションを取りながら信頼関係を築く力は、これからの薬剤師にとって非常に重要です。適切な説明力や傾聴力は、10年後もあなたを守る最大の盾となるでしょう。
薬剤師の少ない地方で働く
キャリア戦略としては、薬剤師に対するニーズが高い場所を選ぶことも有力な方法です。供給過剰となった都市部を離れ、薬剤師が切実に求められている地域へ行けば、仕事がなくなることはありません。
現在住んでいる地域から少し離れるだけで、好条件の求人に出会えるかもしれません。また、10年後を見据えて生まれ育った地域へのUターンやターンを考えてもよいでしょう。
ライフステージに合わせて柔軟に働く場所を変えられるのも、薬剤師免許の強みです。都市部だけでなく、地方でのキャリアも視野に入れることで、働き方の選択肢が広がります。
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まとめ
薬剤師の未来は、決して暗いものではありません。しかし、「今まで通り」が通用しなくなり、薬剤師を取り巻く環境は今後10年で確実に変化していくと考えられます。薬剤師数の増加や調剤業務の自動化などによって、従来と同じ働き方では厳しくなる可能性もあります。
重要なのは、時代の変化に合わせてスキルを磨きながら対応していくことです。10年後、あなたが「選ばれる薬剤師」として活躍しているために。今、目の前の業務に少しだけ「+α」の視点を加えてみてください。変化を恐れず、自分自身をアップデートし続ける姿勢こそが、最も確実な安定への道となります。
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