管理薬剤師とは?役割と要件、年収や転職のメリットをご紹介
更新日: 2020年7月10日
薬剤師としての経験やスキルを積んでいくと、管理薬剤師の仕事に興味を持つようになったり、「管理薬剤師になったほうがいいの?」と考えるようになる方も多いのではないでしょうか。しかし、実際にどんな仕事をするのか、年収はアップするのか、デメリットなはいかなどが気になるところですよね。
ここでは、管理薬剤師になるための要件、仕事内容や役割、年収や転職のメリットまで、詳しくご紹介します。
【目次】
1.管理薬剤師とは
管理薬剤師とは、医薬品医療機器等法によって定められた役職であり、薬局、ドラッグストア、医薬品卸売業などの拠点ごとに配置することが義務付けられている管理者のことです。管理薬剤師は調剤薬局などの現場における最高責任者であり、法律によって色々な義務や制約が課せられています。
管理薬剤師のポジションはさまざまな業種に設けられていますが、調剤薬局の管理薬剤師の数が圧倒的に多いと言えます。
管理薬剤師の責務は、在庫である医薬品の管理と職場に勤務する従業員の管理に大別されます。医薬品の在庫や品質を適正に管理し、法律に従って正しく陳列・販売することや、従業員の勤怠を管理して薬局やドラッグストアの業務を円滑に回すことが、管理薬剤師が果たすべき責任であり、重要な業務として位置づけられているのです。
管理薬剤師になるためには、一般薬剤師としての十分な経験を積んでいることが望ましいとされています。また、通常の調剤業務や一般薬販売業務に加えて、管理職として現場を取り仕切っていくスキルも必要となります。責任が重いぶん、収入も一般薬剤師より高めに設定されており、多くの薬剤師にとっては目標となるポジションになるでしょう。
2.管理薬剤師の仕事内容
管理薬剤師も薬剤師の一形態であるため、日常業務の大部分については一般薬剤師の行う業務と同様です。調剤薬局であれば、ピッキングや服薬指導、薬歴記入、監査など、ドラッグストアであれば、商品陳列や接客、医薬品販売、健康相談などがメインの業務になります。こうした業務は、薬剤師の職能を発揮するうえでの基本となるものであり、当然のことながら管理薬剤師の担当業務にも組み込まれています。
またこれとは別に、管理薬剤師には一般薬剤師にはない独自の仕事内容も存在します。おもな例を次にご紹介します。
3.管理薬剤師独自の仕事内容
①医薬品の品質管理
医薬品を品質が保たれた適正な状態で保管し、安定した供給を維持することは、管理薬剤師としての重要な業務のひとつです。薬によっては温度、湿度、太陽光などの影響によって品質が劣化するものもあるため、管理する際には非常に細かな神経を使う必要があります。調剤室内や冷蔵庫内の温度を毎日測定して薬局管理帳簿(業務日誌)に記録を付けるなどの日常的な取り組みが欠かせないため、管理薬剤師が率先してこうした業務を取り仕切る必要があります。
②スタッフの管理
薬局の管理者として、ほかの薬剤師や登録販売者、事務員などを管理統括するのも管理薬剤師の仕事のひとつです。勤怠の管理やシフトの作成、人事評価や採用面接、薬事研修など、あらゆる面での管理を行わなければなりません。このため、管理薬剤師には高いコミュニケーション能力やマネジメント能力が求められることになります。また、管理には基本的なパソコンスキルが必須になります。
③クリニック・病院など外部機関とのやり取り
管理薬剤師は薬局内だけではなく、外部のさまざまな機関とのやり取りも任せられます。具体的には、近隣のクリニックのドクターと処方内容や患者さんに関する打ち合わせをしたり、医薬品卸の担当者と価格や返品について交渉することもあります。在宅医療を行っている薬局では、担当医師、ケアマネージャー、看護師、患者さんの家族などと訪問サービス全般について綿密な打ち合わせをすることもあり、対外的にも高いコミュニケーション能力や交渉能力が求められます。
④在庫管理
在庫の管理は管理薬剤師の重要な業務のひとつです。発注、返品、期限チェック、廃棄などを通じて適正な在庫量を確保することは、薬局やドラッグストアなどを経営するうえで非常に大切です。在庫が多すぎれば資金繰りを圧迫し、期限切れによる無駄な廃棄を増やすことになります。逆に少なすぎると、欠品を起こしてしまい、患者さんやお客さんに迷惑をかけることにもなりかねません。
このように、適正な量の在庫を確保するには熟練された経験や知識が必要となるため、管理薬剤師が在庫管理を一任される職場が多くなっています。
⑤売上、人件費などの数字の把握
管理薬剤師になると、会社の数字を適切に把握しておくことも求められます。売上高、原価、人件費、利益、在庫金額などを頭に入れながら、自分が管理する店舗をいかに効率的に経営していくかという経営者的な視点が必要になります。これらの数字を社長や本社などに報告したり、今後の業務運営計画について相談されることもあり、責任の重い立場にあると言えます。
⑥薬局開設者への意見陳述
医薬品医療機器等法の第7条には「薬局の管理者は、薬局開設者に対して必要な意見を述べなければならない。」と記載されています。管理薬剤師は薬局の業務について保健衛生上の支障が生じた場合などに、その改善案などについて、薬局開設者(社長など)へ意見を述べなければなりません。現場の不満や問題点などを吸い上げて上層部に上手く伝えることなども、管理薬剤師の果たすべき役割のひとつです。
⑦地域の医療機関や行政などとの連携
薬局やドラッグストアを運営するためには、厚労省や保健所、社会保険支払い基金、労働基準局などさまざまな行政機関への届出が必要です。これは薬局開設者が行うように義務付けられていますが、管理薬剤師が代行することもあります。とくに職場の薬剤師に変更が生じた場合などはその都度、変更届の提出が必要となるため注意が必要です。
4.管理薬剤師と一般薬剤師違い
管理薬剤師と一般薬剤師の違いはおもに以下の4つです。
①責任の重さ
管理薬剤師は、自身が管理する薬局で起こったすべての出来事に対して責任を負わなければならない立場にあります。たとえば、自分が休みの日にほかの薬剤師が調剤過誤を起こしたとしても、管理薬剤師が管理責任を問われ処罰の対象となることもあります。
このように、管理薬剤師は大変責任の重い立場にあり、一般薬剤師にはないプレッシャーがつきまといます。
②給与
後の項目で詳しく説明しますが、管理薬剤師は、業務の広さや責任の重さゆえに一般薬剤師よりも高めに給与が設定されている場合がほとんどです。仕事が大変でも高収入を手にしたいという方にはおすすめのポジションと言えるでしょう。
③副業の可否
後の項目で詳しく説明しますが、管理薬剤師は、自分が管理する薬局以外で調剤やOTC販売などの薬事に関する業務を兼務することが法律で禁止されています。このため、ほかの薬局で兼務されている方などは管理薬剤師になることは原則としてできません。
④勤務時間
管理薬剤師は薬局の責任者であるため、一般薬剤師とくらべてこなすべき仕事の量がかなり多くなります。このため、勤務時間が長くなる傾向にあり、残業をする可能性も一般薬剤師よりも高くなります。一般的な管理薬剤師ですと、1日に平均して1時間程度の残業になることが多く、1か月の勤務時間は200時間前後となる場合が多いです。定時に退社することを強く希望される方には、管理薬剤師の仕事は不向きと言えるでしょう。また、ほかの薬剤師に急な欠員が生じた場合などは、勤務日や時間を変更して柔軟に対応する必要もあります。
5.管理薬剤師になるための資格や要件割
管理薬剤師になるためには、薬剤としての資格のほかに、厚労省が定める要件を満たす必要があります。
具体的には、管理薬剤師は自分が管理する薬局に週32時間以上勤務しなければなりません。通常、正社員ですと1日8時間×週5日=40時間の労働時間が基本となっているため、正社員の方であればこの要件を満たすと考えられます。ただし、管理薬剤師になるには必ずしも正社員である必要はありません。パートタイマーやアルバイトの薬剤師であっても週32時間以上勤務する方であれば問題なく管理薬剤師になることができます。
また、管理薬剤師になるには一般に3年程度の勤務実績があることが望ましいとされています。新卒で薬局に勤める方や長期のブランクがある方は、要件を満たすまでの経験を積んでからということになります。
6.管理薬剤師の年収
一般薬剤師とくらべてどのくらい年収が上がるかについては、多くの方が関心を持たれると思います。
薬剤師の年収は地域、業種、勤続年数などによって差があるため一概には言えませんが、一般に、管理薬剤師になると月額2~3万円程度の手当てが付くと言われています。現在勤めている薬局で一般薬剤師から管理薬剤師に昇進した場合は、年収で20~30万円ほどのアップが見込めることになります。
7.管理薬剤師の兼務はできる?
医薬品医療機器等法の第7条には、「薬局の管理者は、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事する者であってはならない。」と規定されており、休日に別の調剤薬局やドラッグストアなどに兼務することはできません。隙間時間を使って収入を増やしたいと考えている薬剤師の方には、管理薬剤師としてのポジションは不利に働く可能性があります。
また、同じ会社内であっても自分が管理する以外の薬局で業務に従事することが禁止されています。チェーン展開する薬局などで、薬剤師が不足している店舗に別の店舗の薬剤師が応援に行くことも禁止されています。
ただし、この法律にあるように、管理薬剤師の兼務が禁止されている業務はあくまでも薬事に関する業務のみです。コンビニエンスストアや引っ越しのアルバイトなど、医薬品販売と直接関係のない業務であれば、副業は可能です。
8.管理薬剤師の転職
管理薬剤師としての経歴は、転職する際には有利に働くことが多いです。一般薬剤師と違い、管理薬剤師は調剤薬局の管理者として責任の重い仕事に従事しています。このため、調剤技術に加えて、スタッフの管理監督、医療機関や行政機関などとのやり取り、薬局の在庫管理や経営状態の把握など、広い範囲に渡る知識や経験を持っていることが薬剤師業界において認められています。管理薬剤師は普通の薬剤師よりもワンランク上の存在であるため、ほかの会社の管理職に応募する際に有利になるのはもちろんのこと、一般薬剤師の職種に応募する場合でも、管理薬剤師としての経歴がプラスに働くことは間違いないでしょう。
薬剤師のなかには、重い責任を負うことを嫌がって管理薬剤師になりたがらない人も多くいます。薬局経営者としても、今後店舗数を拡大していくなかで管理薬剤師のなり手がいないという問題は頭を悩ませる大きな原因ともなります。こうした点からいっても、管理薬剤師としての経歴は、仕事に対する責任感や将来の管理職候補となることをアピールできる絶好の材料となり、年収を交渉する際にも有利な条件にもって行きやすくなることでしょう。
9.「この薬局の管理薬剤師は?」管理薬剤師の確認方法
医療機関や調剤薬局については、国民に対する適切な情報提供という観点から、各施設についての大まかな情報がインターネット上に開示されています。この情報には調剤薬局の管理薬剤師の氏名も含まれるため、調剤薬局の名称さえわかれば、その薬局に勤務する管理薬剤師の氏名を誰でも確認することができるのです。これは、厚労省が実施している「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」というシステムによるもので、以下のアドレスから各都道府県のホームページに移動して薬局名を検索することで、調べたい薬局の管理薬剤師名を確認することが可能となっています。
出典:『医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.html
そのほかにも、厚労省が提供する「薬剤師資格確認検索システム」と呼ばれるサービスもあります。これを使って薬剤師名を検索することで、薬剤師として登録した年を調べることができるため、当人のおおよその年齢も知ることができます。
出典:『薬剤師資格確認検索システム』厚生労働省
https://licenseif.mhlw.go.jp/search_iyaku/top.jsp
10.まとめ
このように、管理薬剤師には一般薬剤師にないさまざまな責任や負担が伴います。しかし、これらは薬剤師として自分を成長させる良い機会でもあり、将来の転職を成功させるうえでも大きな助けとなるでしょう。薬剤師としてある程度の経験をお持ちで次のステップへ進みたいと考えている方は、ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
筆者プロフィール
まなぶ調剤薬局に勤める薬剤師。一般薬剤師として7年、管理薬剤師として3年の勤務経験あり。本業の傍らで、web媒体を中心に医薬品解説や薬剤師転職関連などの記事を幅広く執筆中。