新しい心不全治療薬「エンレスト(ARNI)」を導入するときの注意点
「サクビトリルバルサルタン(エンレスト)」は、バルサルタンとネプリライシン(NEP)阻害薬(サクビトリル)を組み合わせた新しい心不全治療薬です。HFrEF(ヘフレフ)患者において従来のACE 阻害薬を上回る生命予後改善効果が証明され、基本治療を行っても症状が残る患者さんに、次の一手として導入が検討される薬剤です。
今回は、エンレストの作用機序、主要臨床試験の成果、導入時の注意点などを整理します。
なぜ心不全治療で「エンレスト(ARNI)」を使うのか?
心不全の進展にはRAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)の活性化が深く関与します。RAAS は全身だけでなく心臓でも作用し、心筋リモデリングを促進します。特に「アンジオテンシン II(Ang II)」は血管収縮、交感神経活性化、心肥大や線維化を引き起こし、心不全を悪化させます。
RAAS に作用する薬剤として ACE 阻害薬や ARB が長らく基本治療薬として使用されていましたが、「エンレスト(ARNI)」は、PARADIGM-HF 試験において HFrEF (ヘフレフ)患者に対し、従来の 「ACE 阻害薬(エナラプリル)」と比較して心血管死・心不全入院を有意に減少させました。
また、副次解析では突然死抑制効果も示唆され、従来薬の「上位互換」となりえるエビデンスが示されました。なお、HFpEF患者に対しての有効性が検討された PARAGON-HF 試験においては、主要評価項目に有意差はなかったものの、NT-proBNP 低下効果は確認されており、使用する価値があると考えられています。
さらに、急性非代償性心不全での退院前導入を検討した PIONEER-HF 試験では、退院後8週間で NT-proBNP 低下と再入院抑制効果が示されました。これらのデータから、エンレストは HFrEF においてACE 阻害薬やARBからの切り替えが推奨されるようになりました。
心不全治療で使う「エンレスト(ARNI)」の作用機序
「エンレスト(ARNI)」は、バルサルタンの AT1 受容体拮抗による RAAS 抑制作用と、サクビトリルのNEP 阻害による ANP・BNP などのナトリウム利尿ペプチドの増加作用という二重の作用を持ちます。
特に、NEP 阻害によるナトリウム利尿ペプチド濃度上昇作用はエンレスト独自の作用で、ナトリウム排出の促進、血管拡張、利尿促進、交感神経抑制、心筋リモデリング抑制といった多面的な心保護作用を発揮します。
エンレストはじめてガイド:小児用 を参考に弊社で作成
一方で、NEP は Ang II の分解にも関与しているため、サクビトリル単剤では逆に RAAS が活性化してしまい、血圧上昇や血管収縮を引き起こすリスクを伴います。そのため、「ARB (アンジオテンシンii受容体拮抗薬)」であるバルサルタンを組み合わせることで Ang II の増加を打ち消し、NEP 阻害による心不全改善効果を発揮します。
このように、エンレストは RAAS の抑制とナトリウム利尿ペプチド活性化の2つの経路で心不全の病態に作用できる点が、従来薬との決定的な違いです。