プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理

更新日: 2021年9月1日 青島 周一

プラセボ効果の源泉を探る②―オープンラベルプラセボとその効果

プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理メインの画像1

前回はプラセボを投与される文脈によって、その効果にどのような変化が生じ得るのかを考察した。薬を服用する患者にとってこれらの文脈は、有効な治療を受けることができる確率に還元できる【表1】。しかし、この確率の差異がもたらすプラセボ効果への影響はごく小さなものだった。このことはまた、有効な治療を受けることができる確率が0%、すなわち「事前にプラセボであることを明かしてプラセボを投与」しても何らかの効果が期待できるという驚くべき可能性を意味する。今回は、プラセボを投与する文脈とその効果について、文脈③の考察から始めよう。

【表1】プラセボを投与する文脈と有効な治療を受けることができる確率

プラセボを投与する文脈 投与状況 確率
文脈① 二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験 あなたが受け取る薬は実薬かもしれないし、
プラセボかもしれない
50%
文脈② 実薬だと信じ込ませたうえでラセボを投与 あなたは(本当はプラセボだけれども)強い効果が
期待できる薬を受け取るだろう
100%
文脈③ 事前にプラセボであることを明かして
プラセボを投与
あなたがこれから飲む薬は“単なる”プラセボです 0%

暗示による健康状態への影響とプラセボ効果

プラセボ効果は、暗示による健康状態の変化と考えている方も多いかもしれない。つまり、プラセボを服用する人が本物の薬だと信じこむことによって生じる効果というわけだ。暗示による身体症状の変化については、1998年に報告されたStaatsらの研究1)が示唆に富む。

この研究では36人の健常者(平均21歳)が対象となり、「氷水に手を入れることには健康にとって有益な効果が得られる」と説明した肯定暗示群、「氷水に手を言えることは健康にとってあまりよくない効果がある」と説明した否定暗示群、「何も考えずに氷水に手を入れてください」と説明した対照群の3群にランダム化されている。被験者はアクリル水槽に満たされた氷水中(1℃を維持するよう循環)に手を浸し、痛みに耐えられなくなったときに手を氷水から出すよう求められ、3群間で痛みに耐えられるまでの時間が比較された。その結果、痛みに耐えられるまでの時間は対照群に比べて、肯定的暗示群で長く、否定暗示群で短いという結果であった。
プラセボ効果を暗示による身体状態への影響と考えれば、【表1】の文脈②は理解しやすい。すなわち服薬する薬が(実薬ではなく)プラセボであっても、その有益性について強調すれば、健康に対する良い影響が期待できるということだ。

また、ランダム化比較試験における二重盲検とは、【表1】の文脈①を意図的に作り出し、プラセボと実薬をフェアに比較できる環境を構築していることに他ならない。他方で、【表1】の文脈③は、患者がプラセボと分かってプラセボを服用している状況であり、暗示の影響は少ない環境である。盲検化を行わないプラセボ治療をオープンラベルプラセボと呼ぶが、常識的な見解からいえば、プラセボ的な効果はほとんど期待できないことになる。しかし現実には、前回の記事で紹介した片頭痛の研究2)をはじめ、オープンラベルプラセボに何らかの効果が期待できる可能性が複数の研究によって示されている。

オープンラベルプラセボの効果

2016年にCarvalhoらによって報告されたランダム化比較試験3)では、疼痛に対するオープンラベルプラセボの効果が検討された。この研究では、3か月以上続く慢性腰痛患者83人が対象となり、プラセボ効果に関する説明した後、通常ケアに加えてオープンラベルプラセボを投与する群と、通常ケアのみを行うグル―プの2群で、3週間後の痛みの変化を比較している。その結果、通常ケア群に比べて、オープンラベルプラセボ投与群で統計的にも有意に疼痛が減少していた。

また、閉経後もしくは閉経移行期でホットフラッシュ(ほてり)症状を有する女性100人を対象としたランダム化比較試験4)でも同様に、オープンラベルプラセボの有益性が示されている。この研究では、4週後のホットフラッシュの症状スコアは無治療群で18.41点から15.15点への減少だったのに対して、プラセボ群では16.74点から10.72点へ減少しており、その減少の度合いは臨床的にも意味のある改善であった。発生頻度についても同様に、プラセボ群で1.12 回[95%信頼区間0.43~1.81]少ないことが示されている。

こうしたオープンラベルプラセボ試験は他の疾患領域でも実施されており、過敏性腸症候群5)、アレルギー性鼻炎6)7)、がん関連疲労8)、運動パフォーマンス9)などに対する有効性が報告されている。さらに、2021年に報告されたシステマティックレビュー・メタ分析10)でも、オープンラベルプラセボの臨床的な有益性が示されている。

オープンラベルプラセボを投与する文脈

オープンラベルプラセボを投与する際に、プラセボの概念やその効果をどのように説明するかで、健康への影響に差異はみられるのであろうか。前回紹介した片頭痛の研究2)では、二重盲検プラセボとオープンラベルプラセボで効果に違いは少ないという結果ではあった。しかし、単に「プラセボです」と説明してプラセボを飲んでもらう場合と、プラセボ効果について、様々な情報提供を行ったうえでプラセボを飲んでもらう場合では、同じオープンラベルプラセボでも服薬する人の心理状態は異なるであろう。
疼痛に対するプラセボ効果を検討した実験的研究11)の結果を見てみよう。この研究では、健常者160人が対象となり、感覚刺激装置を用いた熱疼痛に対するプラセボクリームの効果が検討されている。被験者は無治療群従来的なプラセボ投与群(被験者にはリドカインを配合した鎮痛クリームと説明)、理論的根拠のあるオープンラベルプラセボ投与群(プラセボとその効果に関する科学的な説明と期待される鎮痛効果について説明)、理論的根拠のないオープンラベルプラセボ投与群(単にプラセボクリームと説明するのみ)の4群にランダム化され、疼痛の強度(0~100点で評価。点痛が高いほど疼痛が強い)が比較された。

その結果、疼痛の強度は理論的な根拠のないオープンラベルプラセボ投与群と比較して、根拠のあるオープンラベルプラセボ群や従来プラセボ群で統計的にも有意に低いことが示されている【図1】。このことはまた、プラセボ効果には少なからず割合で暗示の影響が含まれていることを示唆する。なお、研究でも、理論的根拠のあるオープンラベルプラセボと従来プラセボとの間に効果の差は認められなかった。

プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理の画像2

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【図1】実験的な熱疼痛の強度に対するプラセボ効果(参考文献11より作成)

プラセボ効果と呼ぶか、宗教的儀礼の恩恵と呼ぶか、という問題

オープンラベルプラセボの効果を検討した研究結果を踏まえれば、プラセボ効果は暗示による健康の変化と同義ではない。ただ一方で、暗示的な影響を受ける側面が皆無というわけではない。プラセボをどう説明するかで、得られるプラセボ効果も少なからず変化する。

一連の考察から見えてくるのは、プラセボそのものが健康に良い影響を与えているというよりはむしろ、プラセボの服薬に同意した患者の背景特性や、患者の関係性を含めた医療者の治療行為が健康に影響を及ぼしている可能性である。このことはまた、プラセボ効果の解釈や意味付けの仕方によっては、医療行為を容易に非科学的なものに変貌させてしまうことを意味する。つまり、もし仮に医学的に定義されるべきプラセボ効果が、「宗教的儀礼による恩恵」とすり替えられてしまった場合、身体に生じうる状態変化を表現する言葉から、科学性が奪われるということだ。

ただ、科学と非科学の間に白黒つけられるような明確な境界線があるわけではなく、両者の間には広大なグレーゾーンが存在する。こうしたグレーゾーンを巧みに利用した医学体系は、トンデモ医療などと呼ばれることもある。次回は科学と非科学の境界にまたがる医療に関して、文献的考察を交えながら、プラセボ効果の取り扱いをめぐる議論に踏み込みたいと思う。

まとめ

プラセボ効果は暗示による身体状態の変化と考えることができる。しかし、複数の研究でオープンラベルプラセボの有益性が示されていることを踏まえれば、プラセボ効果は暗示効果と同義ではない。暗示効果に加えて、プラセボの服薬に同意した患者の背景特性や、患者の関係性を含めた医療者の治療行為が健康状態に影響を及ぼしていると考えられる。このことはまた、プラセボにより得られた効果をどう意味づけ、そして解釈していくかで、医療行為に対する科学性が脅かされる恐れを孕んでいる。

【参考文献】
1) J Pain Symptom Manage. 1998 Apr;15(4):235-43. PMID: 9601159
2) Sci Transl Med. 2014 Jan 8;6(218):218ra5. PMID: 24401940
3) Pain. 2016 Dec; 157(12): 2766–2772.PMID: 27755279
4) Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20090. PMID: 33208855
5) PLoS One. 2010 Dec 22;5(12):e15591 PMID: 21203519
6) PLoS One. 2018 Mar 7;13(3):e0192758. PMID: 29513699
7) Psychother Psychosom. 2016;85(6):373-374. PMID: 27744433
8) Sci Rep. 2018 Feb 9;8(1):2784. PMID: 29426869
9) PLoS One. 2019 Sep 24;14(9):e0222982. PMID: 31550286
10) Sci Rep. 2021 Feb 16;11(1):3855. PMID: 33594150
11) Pain. 2017 Dec;158(12):2320-2328. PMID: 28708766

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青島 周一
あおしま しゅういち

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

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